俳優の三浦春馬さんが亡くなったというニュースに衝撃を受けています。まだ若く将来のある方がこのような形で突然いなくなってしまったことは本当に信じがたく、やるせない気持ちでいっぱいです。全く面識のない私ですらこんな気持ちになるのですから、ご家族やご友人、実際にお仕事をご一緒した方々のご心痛は如何ばかりかと思います。三浦さんのご冥福をお祈り申し上げるとともに、今回の悲報で心を痛めている方々が適切なグリーフケアを十分に受けられるよう願ってやみません。
正確な詳しい状況はご本人にしか分かりませんので、ここから先は三浦さんご自身のことには限りません。
芸能に携わる方の自死や鬱、依存症を始めとしたメンタルヘルスの報に触れる度、セルフケアの大切さを痛感します。俳優は通常の社会生活では滅多に他人に見せないであろう感情を演技として人前で表現する仕事です。
演技を勉強した方であれば「インストルメント(楽器)」という言葉を耳にしたことがあるかと思います。ミュージシャンにとって楽器の手入れをするのが大切なように、俳優にとってのインストルメントである自らの心身のケアは欠かせません。
クールダウンの大切さを知りましょう。「役に入る」ことだけに重きをおくのではなく、「役から抜ける」ことも同じように訓練しましょう。
演技の世界から安全に日常生活に戻ってくる術を身につけることは、演技の質を落とすことにはなりません。むしろその逆で、役から抜ける訓練は役により深く入る助けになると言われています。*
* [“The Biology of Acting: Lucid Body Unmasked”(Fay Simpson)及び “Too Hot Not to Cool Down”(Jonathan Mandell)より]
信頼できる命綱をつけずにバンジージャンプをする人はいませんよね。私達の身体は私達を全力で守ろうとしますから(少なくとも私はそう信じています)、安全に戻ってこれる保証がないのであれば感情の深いところには行かせてくれません。演技の世界で「より深く、遠くまで、自由に飛べる」ように、日頃から意識して演技の後は役から抜けて日常に戻ってくるためのクールダウンを習慣としましょう。
ほんの数秒でもいいのです。グラビティ・ラインを意識して呼吸を整えましょう。心身のバランスを自分のものに戻して、安全な地に足が着いていることを確認しましょう。演技の世界で経験したことは自分の日常生活とは切り離されたものだと自覚しましょう。
NYの大学院で演技の勉強をした先生は、初日のオリエンテーションでスタッフの一員としてセラピストの紹介があったと言います。自分の心身をインストルメントとして使っていく職業だからこそ、セルフケアは大切です。
文化の違いから難しいかもしれませんが、自分だけで解決できない時はメンタルヘルスの専門家に助けを求めましょう。必要なケアを受けることは決して恥ずかしいことではありません。自分が弱いからでもありません。大切なことです。
この世に生まれてきた瞬間から私たちの命は私達だけのものではありません。私達が突然いなくなってしまったら心を痛める人はたくさんいます。大切な友人が失敗したり躓いたりした時にかけるような思いやりや気遣いを、自分自身にもかけてあげましょう。
同じ時代に生まれた者同士、思いやりを持って生きていきましょう。
私は今までに出会った皆さん、これからお会いする皆さんに、俳優という素晴らしい職業を、いつまでも心身共に健康で続けていってほしい。与えられた寿命を幸せに全うしてほしい。心からそう思います。
俳優のためのムーブメント講師として、本当に微力ですが、そのお手伝いができるようなクラスを心がけていきたいと思っています。
改めて、三浦春馬さんのご冥福をお祈り申し上げます。どうか苦しみから解放され、安らかな眠りにつけますように。